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駒ヶ根の自然が息づく無二の蕎麦 『丸富』


伊那谷屈指の蕎麦の名店であり、遥々と関東圏や中京圏から蕎麦通らがめざす存在、それが「丸富」です。同店は今から10年ほど前に、養命酒のふるさと長野県駒ヶ根市にお店を構えました。中央アルプスの麓、清らかな空気と水に恵まれる同地と蕎麦との結び目について店主の宮島秀幸さんに伺いました。

1   駒ヶ根の自然が息づく無二の蕎麦 『丸富』編 その3

 編集部:丸富さんのお蕎麦への思い、おつゆへのこだわりなどを改めて教えていただけますか?

 宮島さん:うちはそばを三種お出ししています。標高1000m、南アルプスしらびそ峠に向かう途中の山里、上村下栗産の玄そばだけを使い、自家製粉して生粉で打つ「しらびそそば」。少し武骨な、クラシックな信州蕎麦のイメージを追い粗挽きの粉を使った、やや太打ちの二八そば「朝日屋」。そして、下栗産と他の産地の玄蕎麦を併せて用い、手挽きの石臼で挽いた粉で打つ細切り蕎麦の「雫(しずく)」。それぞれの蕎麦の風味、味わいの輪郭が失われないように、蕎麦とつゆの関係も相当気を配しています。
つゆというものは醤油や出汁も大切ですが、幅を利かすのが実は「みりん」です。昔は3年ものとか芳醇なみりんを使っていましたが、江戸前みたいに甘ったるいつゆは信州蕎麦には合わないのです。そんなわけで、いまうちで使っているのが、ご近所さんでもある養命酒さんの「家醸 本みりん」(笑)。私がみりんに求めるのは、みりんの品格はもっているけれど、素材の潜在力を邪魔しない、打ち消さないというもので、そんなわがままをきいてくれるのが「養命酒のみりん」なわけです。
つゆにはこのみりんと醤油、鰹節あるいは鯖節だけ。飯田でやっていた頃は、昆布や椎茸も使っていたけれど、いまは使っていないし、砂糖を足したりすることも一切ありません。いってみれば引き算の考え方なのですが、だからこそひとつひとつの要素が非常に重要なウェイトを占めてきます。
あと忘れてはいけないのが水。いい仕事をする以上、いい水を使えることは有利です。

 編集部:お店の空間、あるいは景観についてお聞きしたいのですが。お店のなかは鮮やかな緑と温かい光が差し込み、癒されますね。

 宮島さん:女房には悪いけど、蕎麦を最優先してこの場所に移転してきましたから(笑)。10年前、更地のこの場所を見て私が描いた店のイメージは「懐かしい、山の分校のような蕎麦屋」でした。
店を設計した方は「ミクロからマクロ」という視点をもっていて、単体としての建物ではなく、前からあったもの、周りのものをどういうふうに取り込んでいくかで、建築物はその像を結んでいくというスタンスでしたが、設計にあたっては何度も図面を引き直していましたね。いま店の玄関で使っている照明は、蕎麦の産地である上村下栗地区の廃校になったものをお百姓さんが大事にとっておいてくれたものですが、それを見て設計士が「あぁ、これだ」と。照明に宿っていた命みたいなものが設計士の背中を押したのか、照明を見てから一気に事が運んでいったように思います。
10年という歳月を経て、店を取り囲む環境も飯田にいた頃に描いたイメージに近いものとなりました。いまは、蕎麦もテーブル越しの眺めも一体感がありバランスがとれてきたなと思っています。「時間がご馳走」だとおっしゃるお客様も見えますが、長居してゆっくりされる姿を見るとこちらも嬉しくなりますね。

その4へ続く

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